ロイヤル・タッチ

 その昔、ヨーロッパ特にフランスやイギリスの王様は、病を癒す「不思議な手」を持つと信じられていました。病気を持った人が王様の手に触れられると(”ロイヤル・タッチ”)病が治ると信じられていたため、多くの人々が王の元に殺到したといいます。「信じられていた」だけでなく、王が手を触れた多くの人が実際に病が癒えたという記録が残っています。かの有名なエリザベス一世にも、癒しのパワーが備わっており、多くのロイヤル・タッチを施しました。

 かつての王様が特別なヒーリングパワーを持っていたのか、それとも、その時代の人々の王権に対する信仰が癒しの力を呼び起こしたのか。プラシーボ効果を唱える人もいますし、当時の王様が民衆に対して威力を見せつけるためのパフォーマンスとして行っていたという説もあります。

 何が真実かはわかりませんが、とにかく中世から近代に至るまで、歴代の王様が膨大な数の人々の病を、手で触れることで癒していたことは事実のようです。

 

 福音書にも、イエス様が数多くの病人に手をかざしてヒーリングを行っていた記述がたくさん出てきます。興味深いのは、ある時イエス様が故郷ナザレに行った時の話です。そこで人々は、

 

「これはあの大工の息子ではないか。母はマリヤで、兄弟たちは皆私達の所に住んでいるではないか。この人は、こんなことを皆どこから覚えてきたのだろう」

 

と言い合います。イエス様は、

 

「預言者が尊敬されないのは、その郷里と家族のところだけである」

 

 と言い、その場所では奇跡を起こすことができませんでした。人々が信じなかったからです。イエス様は何度も何度も、「信仰(信じること)」の大切さを人々に説きます。

 

わたしを信じる者は、わたしを信ずるのではない。わたしを遣わされた方を信ずるのである

(ヨハネによる福音書)

 

 奇跡が起こる時というのは、そこに関わっている人間個人の力を信じた時というより、その人を動かしている大いなる力を信じ、身を委ねられた時に起こるのではないかと思います。人は媒体に過ぎず、私達を動かしている存在はもっと高い所にあります。その存在を介してのみ、人は癒され、救われ、浄化されると思うのです。