この世の闇

 憧れの(?)中学生となり、新生活に馴染むべく日々奮闘している娘。部活を何にしようか、目下お悩み中のご様子です。入学前から、ある部活(A部)に入る!と豪語していたのですが、何日か見学してみたところ、イメージと違っていたようで、違和感を感じるようになってしまったようです。極め付けは、同じ部活の一年上の先輩(小学校も同じだった)に、やや素行の悪い人がいること。小学校時代から何かと問題行動が多く、違う学年の子達の噂にも上るほどだったとか。

 しかもその先輩は娘とは帰宅方向が同じなため、部活の見学の帰りにいつも「一緒に帰ろう」と声をかけられるとのこと。わざわざ家の前までついてきたり、ある時はお金をせびられそうになったので、慌てて振り切って帰ってきたのだそうです。

 昨日、浮かない顔をして「私やっぱりB部に入ろうかな・・」というので話を聞いてみると、そんなことが明らかになりました。「私、あの先輩と二年間も一緒だったら、ストレスでおかしくなると思う」。

 

 

 ・・・という話を、夜遅く帰ってきた主人に報告してみました。すると、ふんふんと聞いていた主人の反応があまりにも普通なので、あれ、娘のことが心配じゃないのかなと疑問に思いました。そしてハッと思い出したのが、そういえば主人は、地元でも札付きの悪が集まる荒れた中学校で青春時代を過ごしたのだった、という事実。

 主人の実家がある場所は、「東北のシカゴ」とも呼ばれる地域。暴力団の抗争事件などが地元ニュースに度々上がるような場所でした。”団員”達の子息も数多く通う公立の中学校での三年間では、ドラマ顔負けの出来事が日常茶飯事だったそうです。シンナーの吸い過ぎで歯が溶けている人が何人もいた、トイレに入ったらそういう人達から「お前も吸う?」と袋に入った液体を見せられた、同級生の女の子で妊娠そして中絶した人がいる、校内で対立する二つの不良グループが暴力事件を起こし、誰かがスコップで頭を勝ち割られて流血し新聞沙汰になった、卒業してから数年後かつて不良だった同級生にたまたま出会ったら極道に入っていた、etc...そんな話を昔からたくさん聞いてきたのでした。主人曰く、「オレはあんな環境でよくまともに育ったと思う」。

 そうなのでした、そんな主人にしてみれば、お金を無心してくる先輩など「大したことない」部類のワルなのでした。「オレだって不良からカツアゲされたこと何度もあるし」。

 

「オレの中学時代に比べれば、全然大したことないよ。普通普通。そのくらい社会勉強として経験しといた方がいいよ。オレああいう経験したおかげで、強くなれたもん」

 

 たくましい。実にたくましい。そうだ、人はそういう経験をすると、強くなれるのだ。私は妙に納得し、心配で気をもんでいた気持ちがスーッとほぐれていくのを感じました。人は一度怖い経験、ショックな体験、辛い経験をすると、同じことが次に起こった時に以前ほど動じないものです。そういう経験をしたおかげで、前よりも強い自分になっているからです。

 そう考えると、純粋培養で何の問題も起こらない環境に身を置くより、ある程度厳しい経験をし、”免疫”をつけた方が強い人間になれるのかもしれない。どんな問題が起こっても動じない逞しさがあれば、世の中を渡っていくのもたやすくなることでしょう。社会に出れば厳しい現実が待っている、それが世の中というものです。闇と光が入り混じった世界に身を置いている限り、闇だけを遠ざけて生きていくわけにはいきません。大事なのは、”闇”に出会った時、そこに対処する知恵をつけることと、乗り切る力強さを身に着けることです。そのためには、ただ”闇”を避けて生きていくより、”闇”を経験し、向き合い、乗り越える体験を数多くこなすことが何よりの勉強になると思います。

 

 娘も、少しずつ社会の現実や世の中の闇に向き合う経験が増えてきました。人間としての強さを育んでいる時期なのだと思って、温かく見守っていこうと思います。