スピリチュアルと現実問題

 30年以上、著名なスピリチュアルティーチャーとして活躍し、多くの本も出版しているあるアメリカ人女性の本を読んでいました。国内外で数々のワークショップを主催し、何千人ものカウンセリングを行ってきた経験を持つ、ベテランです。

 その方(A女史とします)に、ある時実の弟と父親を立て続けに亡くすという不幸が襲います。更に、その出来事がきっかけで、以前からギクシャクしていた夫との関係も悪化し、ほどなく離婚をしてしまったのだそうです。絶望とショックに打ちひしがれ、憤りとやりきれない感情に支配されて自分を見失いそうになった時、それまで自分が信望してきた、『許しなさい』『ジャッジしてはいけません』『これはカルマなのだから仕方ないのです』といった”スピリチュアリスト”的なセリフは、ただ自分の中の怒りを増長させるだけだった、と書かれてありました。『無条件の愛』だとか『赦し』『スピリットガイドの助け』『直観を信じる』といったツールも、”これっぽちも役に立たなかった”、と吐き捨てるように書かれてあり、思わず読んで苦笑してしまいました。

 スピリチュアルティーチャーとして第一線で活躍する自分が、夫との関係がこじれ、離婚し、そのことで打ちひしがれてどうにもならない状態に陥っていること自体が、そもそも恥ずかしく、他人が知ったらどう言われるだろう、とも思ったとのこと。複雑な関係性だった父親と弟を亡くしたことで、自分の中のインナーチャイルドがまだまだ癒されていないことにも気づきました。

 その後、A女史は全てを投げ出し("Surrender"です)、祈りを捧げ、神に自分を委ねることにしました。そして間もなく、「巡礼の旅に1人で出る」という啓示を受け、それを実行に移します。

 

 

 そんなものなのかもしれないなあ、と思いました。私自身も、10年前くらいに、憑りつかれるようにスピリチュアル関連の本を読み漁った時期がありました。もともと天使とか霊界とかいう話は大好きでしたから、水を得た魚のように、嬉々として”そちら”の世界にどっぷりと浸かっていました。

 

 けれど、いくら意識をそちらに持って行ったとしても、しょせん今の自分が直面しているのは、この現実世界なのでした。現実世界に身を置き、現実生活を送り、現実問題に向き合う。そういう毎日でした。そして、現実問題に向き合うためには、実際は、”スピリチュアル”な助けよりも、現実的で具体的な助けの方が、はるかに役に立ったのです。”スピリット”の声も時には助けてくれましたが、具体的に問題を解決してくれたのは、生身の人間や、実質的な体験でした。

 

 最近は、実践的なカウンセリングの本や、臨床に基づいた心理学の本、様々な心の問題を経験した人の生の声が載っている書籍など、より現実的な内容の本を多く読むことが多いです。心が苦しくて助けを求めている人は、精神世界の話よりも、具体的な解決策を求めていることに気づいたからです。

 そして私自身も、日々の現実生活を送る上で、三次元的な問題に具体的に向き合うために学んだノウハウに、とても助けられています。ちょっとした考え方や思考の切り替え、テクニックが、本当に役に立ってくれるのです。

 もちろん、スピリットの世界を信じなくなったとか、霊的な世界との繋がりを絶ったというわけではありません。むしろ、自分が現実に真摯に向き合い、地に足の着いた生活を送るようになってからの方が、スピリットの世界との繋がりを強く感じるようになったように思います。この世界を動かしている大きな力に対する信頼感も、以前より増しています。スピリチュアルに没頭していた時期は、そうした大いなる力(宇宙、神、呼び方はなんでも)と、そこに自分が繋がっているのだという感覚が足りなかったために、不安が強かったのかもしれません。