親の望みと子供の習い事

 あるお母さんと話をしていた時のこと。幼稚園に通う娘さんが、今習っているバレエをやめたいと言いだした、と話してくれました。なんでも、バレエではなくサッカーがやりたいのだそうです。そのお母さんは、娘さんにはどうしてもバレエを続けさせたいので、何度も「やめたい」と訴えてくる娘さんの強い気持ちとの間で葛藤されているようでした。

「どうしてサッカーではダメなの?」と聞くと、

「だって女の子だし、サッカーなんて・・。バレエは姿勢も良くなるし、私も本当はやりたかったの

とおっしゃいました。


 それを聞いて私は、自分にも似たような経験があるなあ、と昔を思い出しました。実は私も、娘が小さい頃少しだけバレエを習わせていたことがあったのです。習わせた動機は、そのお母さんと同じで『姿勢が良くなりそう』とか『女の子らしさが身につきそう』いったものでした。

 幼い娘は何の疑問を抱くこともなく、言われるがまま教室に通っていました。しかし1年くらい経った辺りで、私は何となく、「娘は心から楽しんでバレエをやっているわけではなさそうだ」ということに気がつきました。本当にバレエが大好きで、自分から望んで通っている子供を見ていると、表情が生き生きとしていてはじけるような楽しさが伝わってくるのです(そしてそういうお子さんは上達も大変早い)。けれど、娘にはそれが感じられませんでした。私は次第に、バレエ教室に通うことに対して何かモヤモヤした思いを抱くようになりました。このモヤモヤは何だろう。何かが違うと言っている。それを知りたいと思った時、私はハッと気づきました。


 私が娘にバレエを習わせたかった本当の理由は、『自分が子供の頃本当はバレエを習いたかったのに、習わせてもらえなかった』という、心の奥底にあった不満であったことに。


 ちょうどその頃、娘はある別の習い事に興味を示していました。私は試しに娘に聞いてみました。

 「バレエか〇〇を選ぶとしたら、どっちがやりたい?」

娘は、即答で「〇〇!」とその習い事の名前を挙げました。その明確な答えを聞いて、私は心が決まりました。子供に、自分の望みを投影させてはいけないと。バレエをやめて、その新しい習い事をさせることに決めたら、ずっとモヤモヤしていた心のつかえがスーッと消えてなくなるのがわかりました。

 娘は今、いくつかの習い事をしていますが、どれも皆自分から「習いたい」と言ってきたものです。本当にやりたくてやっていることなので、生き生きと楽しそうに通っています。私だったら絶対にやりたいと思わなかったであろう習い事にも通っていますが、私と娘は違うので、そんなこともあって当然なのかもしれません。


 子供は素直なので、お父さんやお母さんが「やりなさい」と言ったことは、たとえやりたくないことであっても、文句も言わずにやることがあります。だからこそ、本当にその子が望んでいることなのか、それとも親である自分の満たされていない部分を穴埋めさせるために、子供にそれをさせようとしているのか、見極めなければいけないと思っています。かつての自分もそうでしたが、今周囲を見回してみても、親の思いが先立って、子供がやりたくもないことを無理やりさせられている構図をよく見かけます。そんな姿を見ると、私は胸が痛くなります。親のために犠牲になる子供が、できるだけ少なくなればいいなと願っています。


 バレエ教室の体験は、私に大きな教訓を与えてくれました。たとえ反省すべき体験だったとしても、何かしら意味があり、そこから学ぶことがあるから起こったことなのだろうとポジティブにとらえています。ちなみに、そのバレエ教室で知り合ったあるお母さんが教えてくれたおかげで、私は気功治療の存在を知ることになりました。そしてそこからエネルギーワークや波動療法の世界へと広がっていき、今の私に至っています。ですので、やはり自分の身に起こっていることは何一つ無駄なことはなく、全てが繋がっているのだなと思います。