自分に戻る

 小学生の娘が、夏休みの宿題の読書感想文を書くのに四苦八苦しています。思い起こせば、私自身も読書感想文を書くのが苦手でした。そもそも本を強制されて読むことを窮屈に感じていましたし、本を読んで「本当に思ったこと」を書いたといても、それが学校では”良い文章”という評価を受けられないのが分かっていたからです。心の中で本当に感じていること、考えていることは、先生や大人達に受け入れられないといつも感じていました。ですので、読書感想文や作文などに書くことは、自分が本当に思っていることなどではなく、「このように書けば先生は評価してくれるだろう」といった打算的な内容でした。「私は、~と思いました」と書きながら、心の中では「本当はこんな風に思っていないんだけどなあ」と少し罪悪感を覚えていたものです。いつでも、自分に嘘をつく時には胸が痛みます。

 

 子供が、自分が感じていることや考えていることを正直に話した時に、”大人達”から咎められたり、否定されたり、笑われたり、といった反応を受け続けるとします。子供は、自分が話す内容はいつも周囲に拒絶される、自分はおかしいのかもしれない、間違っているのかもしれない、と考えるようになります。自分は受け入れられていないという悲しみと、解ってもらえないという”大人達”に対する不信感が湧いてくるようになります。それでも、自分が見捨てられるかもしれない、愛してもらえないかもしれないという恐れから、本当の気持ちに蓋をして、周囲の”大人達”が喜ぶような人間になろうとします。

 自分の心の叫びはどこかに押しやられ、一生懸命、”大人達”に認めてもらえるような振る舞いをし、どこかで違和感を覚えつつも、それが正しいことなのだと無理やり自分を納得させます。ーーだって、”大人達”がこんなに喜んでいるのだから。自分が我慢をすれば、みんなが幸せになれるんだ。

 

 物心ついた頃からの習慣で、大人になってからもこのように周囲の顔色に合わせて自分を演じる生き方が染みついてしまっていると、それがあまりにも当たり前のことになっているので、自分のあり方に疑問をもつことすらしません。むしろ、そのことに触れないように、深く考えないように仕向けます。自分の本当の気持ちに正直になることに対し、自我意識が拒絶している状態です。自分の心を素直に出せば、周りから拒絶されたり、責められたりするのではないかと無意識化で恐怖心があるのです。自我意識(エゴ)は、こうした”恐れ”のエネルギーで成り立っています。

 

 では実際に、「自分の本当の気持ち」に正直になってみるとどうなるかというと。

 

 予想していたように、拒絶されたり責められたりといった反応を受けるかもしれません。受け入れられなかったり、笑われることもあるかもしれません。

 でも、あんなにモヤモヤと自分の中に巣食っていた虚無感が、まるで霧が晴れたような爽快感に変わっていくのを感じるでしょう。今までの自分は、本当の意味で生きてはいなかった、これが本当の自分なんだ、生きているってこんな感覚だったんだ!と、魂の奥から湧き上がってくる歓びを感じることができるようになります。今まで、嘘をついて痛めつけてきた自分が愛おしくなります。自分が初めて、大切な存在に思えてきます。

 周りの反応は、初めのうちは相変わらずかもしれません。でも、自分を大事にし、自分の気持ちに正直に生きていると、不思議なことに周囲も自分を受け入れる方向に次第に変化していきます。周りの反応は、自分自身がどこまで自分を受け入れられているか、ということを表しています。ですので、自分に対する自分自身の態度が変わっていけば、自ずと周囲の自分に対する反応も変わっていくわけです。今までは、「周りから自分がどれだけ受け入れられるか」ということばかり気にしていたかもしれませんが、本当は、周りの反応など、自分のあり方次第でいくらでも変わるものだったのです。

 このことがわかってくると、自然と周囲の反応や他人の声が気にならなくなっていきます。すべては自分自身だということが理解できたので、もう周りを恐れる必要がないのです。周りに縛りつけられていたように感じていたけれど、本当は自分で自分を縛っていただけだったんだ。今まで恐れていたことは全て幻だったのだ、と思えるようになります。

 そこにあるのは、無限に広がる可能性と、自由です。恐れのない世界は、どこまでも羽ばたいていける大空のようです。

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