アロマテラピーにおける代表的な精油といったら、なんといってもラベンダー。その優れた効能から、「ハーブの女王」と言われています。
日本に入ってきたのは昭和に入ってからだそうですが、海外では遥か古代エジプト時代から、殺菌・防虫効果などの薬効性の高さから尊ばれてきました。ラベンダーの香油はミイラ作りの儀式に用いられ、ツタンカーメンのお墓にはラベンダーの香料が一緒に埋葬されていました。お墓が発掘されて初めて蓋が開けられた時、なんと3000年以上も前のラベンダーの香りがちゃんと残っていたのだそうです。
ラベンダーはその後、ローマ人によってヨーロッパにもたらされます。中世にヨーロッパでペストが大流行した際、ラベンダー畑で働いていた農夫や、皮製品に香りをつけるためにラベンダーの精油を用いていた革職人が感染しなかったことから、ラベンダーはローズマリーやアンゼリカなどと一緒にペスト患者の家で焚かれました。また、ペスト患者の墓を荒らす泥棒たちが、事前に体にラベンダーウォーターを塗っていたためペストに感染することがなかった、という話も残っています。ラベンダーの強力な消毒・抗菌作用が知られるようになり、その後も疫病が流行ると空気の洗浄のために、ラベンダーが焚かれるようになりました。
ラベンダーには精神を穏やかにし、不安を癒して不眠を解消する効果もあります。片頭痛持ちだったエリザベス一世はラベンダーをこよなく愛し、毎日10杯のラベンダーティーを飲み、食卓にはラベンダーの砂糖漬けを欠かさず置かせ、夜の衣装や下着をラベンダー水で洗うことを言いつけていたそうです。大国を統治する重圧を、ラベンダーの癒し効果を借りながら乗り切っていたのでしょう。
近代に入り、ラベンダーが皮膚再生能力に優れ、傷痕を残さず怪我や火傷を治すことも解ってきました。第一次世界大戦中、薬品不足から政府が民間人の庭で栽培されているラベンダーを集め、兵士の怪我の治療に用いた所もありました。ナイチンゲールも、傷病兵士の鎮静・鎮痛用にラベンダーを用いたという記録があります。傷ついた兵士達の眉毛にラベンダーの精油を塗って回っていたこともあったそうです。ラベンダーの持つ薬理作用が皮膚からの吸収と鼻からの吸引というダブル効果で得られる、素晴らしい療法です。
我が家でも、子供の(大人でも)ちょっとした怪我や火傷の際には大活躍してくれています。ラベンダーは少量であれば精油を希釈せずにそのまま使っても良いので、絆創膏のコットン部分にラベンダー精油とティーツリー精油を染み込ませ、しばらく傷口に貼って置きます。傷が早くふさがり、鎮痛効果もあるので、子供も騒がなくなります。
また、ホホバオイルにラベンダー精油を入れたマッサージオイルは、子供が情緒不安定になっている時に大変便利です。このオイルで足や手をゆっくりマッサージしてあげると、スキンシップ効果もあって表情がだんだん柔らかくなり、夜であればたいていそのまま穏やかな寝息をたて始めます。母親と子どもの肌が触れ合うと、オキシトシンという幸せホルモンが分泌されるのだそうです。最近では、不安な気持ちになっている時や、たくさん運動して疲れた時など、自分からオイルの入った瓶を持ってくるようになりました。
悠久の時の流れの中で、世界中の人々の肉体と精神を癒してきたラベンダー。時を超え、昔の人々が嗅いだものと同じ香りを現代の私たちも嗅ぐことができ、その癒しの恩恵に預かることができています。物言わず無償の愛で人類の癒しに多大な貢献をしてきた万能ハーブラベンダーに、感謝と畏敬の念を覚えます。